田中はゆるくいきたい

過去からの決別の物語に見える「宇宙より遠い場所」

カルチャー

宇宙より遠い場所、というアニメを見た。このアニメ色々と読み込まなきゃ行動の理由や言葉の意味が分からない部分が多いと思う。しかし、それが分かった時めちゃくちゃいい物語に見える。このアニメは一言で言うと「過去からの決別」がひとつテーマになっている。今回はその角度から話したい。

あえて南極に行かない友達を描く

この物語は南極に行くことを女子高生が目指す物語になる。その中で良かったのはその人間たちだけではなく、それに嫉妬した人間も描いていることだ。南極に行くことを目標にしてそれを常に口にしているシラセとそれに感化されたキマリは学校にいるだけで陰口を言われたり、煙たがられる。

その中でもキマリの親友のメグミは南極に行きたいと言うキマリに対してあまり関心を示さないように見える。何に対しても熱くなれない、現実主義のメグミをいわゆる普通の女子高生として描いている。なおかつキマリの友達に据えているのが面白い。今までキマリに対してなんとなく面倒を見ていた気になっていたメグミの感情変化が最高に良い。キマリが自分で南極に行きたいと言ったということはもうメグミに世話をしてもらわなくても自分で考えをするという示唆である。

メグミは自分が何も持っていないと思っていて、キマリも何も持たなくてもいいと思っていた。それは何かと言うのは夢とか目標とかそこらへんだろう。夢や目標がなく、メグミは冷めていて熱くなれなくて現実主義なのだ。だから目標や夢を持ち始めたキマリに嫉妬した。しかも、キマリが目標を持った理由は自分ではないシラセに影響を受けてのことだ。メグミは嫉妬した結果、いろいろな話をいろいろな人に話してしまう。シラセが100万円を持っていること、隊員を誘惑して南極に行こうとしてるのではないか、など。学校内でシラセやキマリが陰口を言われている理由の一部が自分のせいだとそして友達として絶交しようとキマリに涙ながらに話す。しかし、後述するが誰よりも共感する能力が高いキマリはそれを許すのだ。

髪を切るシラセと100万円を南極に置いてきた意味

シラセが髪を切るシーンがある。その意味は過去の決別で母親との決別である。しかし、シラセは髪を切ると母親に似る。母親の思い出との決別ができてない状態で髪を切り「母親と似ているね」と言われたらそれは感情表現として泣くか怒るかどっちかをしていたと思う。この髪を切った時の時系列を考えるとすでに母親との過去の思い出とは決別しているので「母親と似ているね」と言われてもなんとも思わないのだ。なぜかと言うと母と娘で顔が似ていても、私は私なのだから。それを補完する出来事として過去との決別があり、未来まで続く友達がいて、現在進行形で行きたいと思っていた南極があり隊員たちがいるからなのだ。シラセの心の中で母親との話にはここで一本の線が引かれて区切りがついたのだと感じる。

母親は死にそうな状態でも「きれいだよ」と言って連絡が取れなくなったのだと隊長から聞く。それは何を意味するか。死にそうな状態でも目の前のきれいな状況を楽しんだ。つまり、死にそうな状況になっても現状を楽しんだ。そういった今しかできないことを楽しむ、という母親のことを見て娘であるシラセもそう生きようと思ったのだ。そして、他の隊員に何かしたくないかと言われて野球がしたいと答える。なせかというと今の人たちと今しかできないことを母親のように楽しもうと思ったから。

このことから母親が南極で拠点にしていたところにシラセが100万円をおいてきた理由も説明できる。この100万円というのは母親の遺品を探すため、母親と同じ風景を見るために、南極に行くためにバイトをして貯めたものだ。しかし、母親が伝えたかったことは目の前のことを楽しむ、ということだった。バイトは一生に一回しかない学校生活の授業や友達との関係を犠牲にしてした行為のはずだ。それは母親の最後まで貫き通した「目の前の光景、今を楽しむ」という行為と反対だ。これからはそんなことはしないようにしよう、とそれを戒める行為として南極に100万円を置いてきたのだ。シラセが学校に帰ってやることは友達を大切にすること、学校生活を楽しむことなんじゃないか、とそこまで読める。

もはや南極を行くことは目的ではなく手段となっていた

このアニメは依存していたものから自立する・変化する物語だ、と言うこともできる。その裏付けとしてアニメの最初のシーンでそれが説明されている。

よどんだ水が溜まっている。それが一気に流れていくのが好きだった。決壊し、解放され、走り出す。よどみの中で蓄えた力が爆発してすべてが動き出す。

それぞれの淀んでいた変わらない世界を変える物語を示唆していた。これは南極に行くことが途中までは目標になっていたけれど途中からもっと大切なものを手に入れるための手段になっていた、とまとめることもできる。

佑月は最初、仕事のために南極行くことになっていた。しかし、最後には仕事のために南極に行くということよりもいままで友達と言う感覚が分からなかったがキマリのような大事な友達を得ることを手に入れたのだ。そして、隊員からサインを求められていて仕事しか見えていなかった佑月はそこで初めて他人が応援しているという感覚を持ち、アイドルとして仕事に取り組むことを誓う。


ヒナタは学校に行かず勉強やバイトっていう他の人間とは違うことをしていたっていう後ろめたさがある。それはちょっとしたカメラワークや演出でもわかる。そこで普通の人間ができていたこと部活や思い出になるであろう修学旅行とかを南極に求めていると思う。しかし、南極に行って得たのは人から距離を置いていたヒナタが自分のことを考えてくれる友達だったんだと読み取れる。

キマリは小さいころからメグミに依存していたのにシラセに会ったせいでその依存関係のようなものから抜ける。近くにメグミがいるので余計夢見がちな普通の女子高生に見えるが本当は誰よりも人に寄り添える、共感できるという能力を持っている。それはこのメンバーで南極に行くことの節々で発揮されている。少しずつ問題を抱えているメンバーをゆるい形でまとめ上げるのに絶対キマリが必要だったのだ。