田中はゆるくいきたい

繰り返される停滞した日々、閉ざされた未来、ナルキッソスの感想

カルチャー

ここ最近、僕の心の中では「昔の作品を見ようの会」が好評開催中である。その一環としてナルキッソスというノベルゲームをやってみた。ナルキッソスは知る人ぞ知るノベルゲームの一つで今はsteamで無料プレイ可能だ。病弱なヒロイン、突然病気になってしまった主人公、という設定からして暗くなりがちなストーリーではある。実際、僕も暗い気持ちで序盤はゲームを進めていた。しかし、これは最後まで進めていくとわかるが救いの物語だったのだ。

死が決められている未来と停滞した病院での生活

主人公は大学生。免許取得した後日、体調不良で入院することになる。医者の診断結果は体調不良の原因が不治の病で余命わずかだと知らされる。主人公は重病患者だけがいるという病院の7階へ移動させられた。そこで同じく不治の病を患っている少女セツミと出会う。二人はどちらとも普通の暮らしは出来ず、病院でテレビや本を見る毎日で好きな食事も食べられず友達と遊ぶこともできない。

他の友達は恋愛や一人暮らし、夢に向かって頑張っているときに不治の病になり余命がないばかりに二人は鬱屈とした病院生活をしている。ある日、主人公はそんな停滞した日常から逃げるようにセツミと一緒に病院を抜け出し車で逃避行をする。最初は目的地も行く当てもないのだがセツミの憧れから目的地が決まる。

結末、嗚咽

二人は何から逃げたのだろうか。病院、余命が少ないという現実、同世代の人間・・・。しかし、逃げたのではなく進んだともいえる。その病院で余命を待つ日々を過ごすという選択から積極的に自分の見たい景色を進んで見に行ったのだろう。結論から言う。二人は見たい景色が見ることができた。それはとてもきれいだったし感動すらした。しかし、そのあとセツミはある決断をする。

残念ながら主人公たちがこの逃避行をした時から僕は何となくこんな結末になるんじゃないかと思ったのが当たってしまった。結末は予想通りだったのにもかかわらず嗚咽が漏れた。一般的には暗い、バッドエンドと言われる結末がそこにはあった。しかし、その結末を目にした瞬間セツミは間違いなく救われたのだと思った。これでよかったのだと、セツミは救われたのだ、と思える結末だった。そのあとに画面に残ったのはやけに明るい音楽と前向きな言葉だけだった。

人生の終わりとハードボイルド

ここまで書いた通りゲームをプレイすればストーリーの素晴らしさは十分伝わってくる。ただそれだけでなく注目したいのはその表現方法として使われているのが淡々とした文章と背景だということだ。最近のノベルゲームでは背景かキャラの立ち絵が大きく取られそこの下にテキストボックスがあると思うがこの作品は背景もテキストボックスもそれに比べると小さめに思える。

そしてゲームの進行場面ではキャラクターの立ち絵を頻繁に登場させることはない。これがほぼ文章のみによってキャラクターの表情や立ち振る舞いを想像させるようなギミックになっていて非常におもしろい。これはノベルゲームというかもはや見る小説と言ったほうがいい。かなり作りがハードボイルドだ。そして何よりも人生の終わりにセツミが最後の最後に救われたのがよかった。主人公の逃避行をするという一見無計画な行動がセツミのような何にも希望を持てない少女を救ったのは本当に良かった。