人間の外と内を描写したエヴァンゲリオンのすごさ

2021年10月13日

いまさらエヴァンゲリオンのテレビ放映分を見た。本当に良かった。僕が今まで見ていたすべてのアニメを過去に追いやったと言っても過言ではない。その中でも25,26話が好きだった。しかし、それは個性的な見せ方だからでもなく独白が続くからでもない。その凄さは1~24話で世界やエヴァや使徒、周りの人間を描き切ったからできる芸当なんだと気づいた。だからエピソードとして局所的に好きなのではなく、トータルで全体を好きになった作品だった。

重要なシーン以外を描写しない勇気

いい意味で映像が論理的、丁寧ではない。いらないところを全部捨てる。そうすることによって描写したい部分を明確にした。長々と状況の説明や説明口調を極力しない。いきなり戦闘シーンや重要なシーンに移行する。会話しているのに口元を書かない。重大な決断をする前は映像を動かさずに間を持たせる。これを意図的にやっている。

これが小説やマンガだったら間が持たない。小説やマンガだったら読む速度は可変で無言の部分が続いてもそれがその物語上ではどれくらいの時間が流れているかを描写するのはほぼ不可能だ。ただアニメだったらそれができる。

エレベーターでアスカと綾波が話しているシーンだってアスカが葛藤や怒りがあるからあんなに長いエレベーターに乗っているシーンがある。シンジがカオルを始末するシーンだって自分を認めてくれた好きになってくれたカオルを殺すのが嫌だから、葛藤があるからあんな長いシーンが生まれる。もしそのシーンをすぐ流したら、すぐ殺したら本当に台無しだ。そこが分かってる。

それは25,26話で真骨頂を迎える。世界はどうなったのか、誰が勝って誰が負けたのか。そんなシーンはない。それよりも描きたい部分があった。それがシンジは今まで生きてきてどう思ったか。視聴者目線だと1話から現在までシンジの感情の変化や何に絶望して何に期待したのか。それを描写しきった。そこの重要さに比べると他のことは描写する必要はない。

丁寧に一人の人間の外を埋める作業

全体を見ると一人の人間の内面を浮き彫りにするために人間の外側を詳細に描くという構成に見えてくる。外側というのは環境や状況である。

現在の話。エヴァンゲリオンやネルフ、その世界がある。使徒と戦わなくてはならない。多くの人間の利害などが交錯する。そして過去の話。登場人物は幼少期の出来事や恵まれなかった経験などが起因して現在の性格がある。シンジだけではなく、アスカも律子もミサトも。そこで記憶がない作られた存在である綾波も対比として出す。それぞれに欠けているものがある。これで現在と過去の登場人物たちの外側が埋められている。

人間以外のものを描くこと。それをすることで一人の人間を描きたかったんだろうと思う。一人の人間の環境を描写して外堀を埋める。そして最後の最後に外堀に埋められた中心、つまり一人の人間を描く。一人の人間ではどうしようもない世界観、使徒、エヴァ、ネルフなどをストーリーで長い間詳細に描いてきた。でも実はその裏でずっと問題になっているのは一人の個人としての考えや感情だった。それが特にシンジの内面だ。丁寧に周りを描くことによって一人の人間が浮き彫りになる。

シンジは他人に拒否されたり嫌われることが嫌なので一人の世界に籠りがちだ。だからイヤホンで音楽を聴く。父親に褒められて過剰に喜ぶ。それとは別に周りの人間や組織に振り回される。なぜエヴァに乗るのか?自問自答したり他人に聞いたりする。自分はいったい何なんだろう。それが26話のこの言葉に集約されている。

あなたしかいないから自分の形が分からなくなる。他の人の形を見ることによって自分の形が分かる。

周りの環境や他人がいるから自分の存在や価値を認識できるのだ。自分の世界だけに籠ってたら存在が分からなくなる。しかし、エヴァに乗れば褒められるが、逆に言うとそれだけの価値しかないのではないかと恐れる。

たどり着いたのは

大人にもそれが当てはまる。幼少期の何かが許せなくて復讐のために生きたり、鈍感になったりして生きていく人たち。もうちょっと大人になったらシンジだって余計なこと、不都合なことに目を背け続けて鈍感に生きていけるかもしれない。ただ、シンジは幼いのでそれが出来ない。

これまでエヴァンゲリオンに乗って、大人の理不尽さや自分ではどうしようもない世界があり、他の人間に傷つけられたりした。その記憶を振り返りながら自己対話が延々と続く。そこでシンジは欠けているものを見つける。それは人に好かれた経験がない、成功体験がないのだ。そこでシンジは自分を好きになろうと努力することを選ぶ。他人の価値観ではなく、自分でそう決めた。素直な気持ちになると自分はここに居たかった。他人に居てもいいと言われるわけではなく、自分でそう決めた。そこで初めてシンジは子供のころから戦ってきた感情との決着がついた。だから「おめでとう」であり拍手なのだ。