変化していく街と人の中で光を見つける物語、CLANNAD

2021年10月13日

僕が中学3年生の頃。毎週、木曜日朝方にニコニコ動画で違法アップロードされていたアニメがあった。僕はそれまでほとんど友達とアニメの話題をしなかったし、あまり興味も持てなかった。しかし、そのアニメだけは見ようと思った。本当に面白く感じた。ストーリーはもちろん、オープニングからエンディングまですべてが輝いて見えた。その時は、そのアニメに釘付けになり感動してそのまま学校を休んでいたぐらいだった。それがCLANNADである。

今回はそのアニメ版を思い出しながら、10年の歳月を経てゲーム版をやったのでその話をする。

何も変わらずにはいられない

この学校は、好きですか。わたしはとってもとっても好きです。でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。楽しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ。…ぜんぶ、変わらずにはいられないです。それでも、この場所が好きでいられますか。

全ての始まりはその渚の言葉だった。

このシーンは作品の根幹で絶対的に必要な部分だ。この時点で岡崎は新しいものを見つければいいと考える。対して、渚は変わっていくものに対して憂鬱になっている。しかし、物語の最終盤では岡崎が守りたい物ができる。その時に変わってしまうものに対して嫌悪感を抱くようになる。その反対に渚は新しいことに対して許容するような姿勢を見せる。岡崎に出会えて希望を持てたからだ。感情の変化には理由がちゃんとある。物語が進むにつれて最初と最後ではその立場も逆転する。

渚のこの言葉はどの人間のストーリーに入っても効いてくる。街は開発され変わっていく。空き地にできたファミレス。幹線道路。新しい校舎。岡崎がやっている仕事。高校を卒業したら会えなくなる人間もいる。学生と社会人の違いに岡崎の気持ちも変わっていく。渚以外の人間のストーリーを見ても渚の言葉は頭の片隅にこびりついている。

岡崎以外のものが変わっていく。岡崎の愛したものはすべて思い出となり新しい世界が出来上がっていく。何もかも、変わらずにはいられず何もかも変わっていく。変わってほしくないもの、つまり渚もそれに含まれていったときも。岡崎は渚も変わってしまうのではないかと恐れている。

最初はどこにも行けない自分に苛立ちを覚えていた、抜け出すことのできない街が嫌いだった。何もかもが嫌で全てが変わることを望んでいた。しかし、大切なものができてからは変わらないことを望むようになっていた。

同じ町に住んでいる違う人間を見る

このゲームは恋愛シミュレーションという枠に入ってない。なぜかというとルートに入っている人間の種類が男女関係なく、同年代ですらないこともあるからだ。学校の先生。違う街から来た少年。学生寮の寮母。これがアフターストーリー、つまり渚と岡崎が結婚するストーリーになるとさらに広がる。

こういう設計にして何を伝えたいのか。その狙いは、岡崎以外の人間を描くことによって相対的に岡崎がどんな人間か描くこと。序盤で岡崎は「この街が嫌いだ」と思っている。現在の状況に面白みを感じていなく、将来社会人になっても仕事をしたいと思っていない。希望を持っていない。

元々岡崎はバスケをやっていてそれなりに充実していた人間だったし、友人の春原も同じだ。しかし、二人ともあるきっかけでスポーツができなくなる。高校でどちらかというとマイノリティだし普通ではないと自覚があるしそれに痛みを感じている。同じ穴の狢だし同類だ。しかし、春原と岡崎でも考え方に違いはある。そうやって岡崎と他の人間の違いを描写していく。

渚は家族に恵まれている。母親も父親もいい人間だ。暖かい。それに比べて岡崎の父親は、腕が上がらない原因を作った。父親と仲が悪い。父親もある日を境にして岡崎に対して敬語で接するようになる。表情もニコニコとしているがそれは不気味なくらい変わらない。違う人間の両親の対比をさせて自分の家庭が普通ではない自覚をする。

違う街から来た勝平は楽しんでいる。現状を変えようとし、仕事をして双子の妹の椋と付き合う。今を楽しみたいと言い、いろいろなことに挑戦していく。岡崎とは違い勝平は「この街が好きだ」と言う。岡崎が停滞している存在として描かれているとしたら勝平は他の町から来た前向きな存在として描かれている。

智代は目標がある。智代は真面目で文武両道を地で行く存在だし、挙句の果てに生徒会に入ることにする。本来なら絶対に交わらないであろう二人。停滞していると自覚している岡崎と違って、より高いところに行こうとしている智代。ここでも他の人間を描くことによって岡崎がどういう人間かを描く。

こうやって岡崎とは別の人間を複数描く。この街は良い街だと思っている人もいる。街のために働いている人もいる。見えないところで岡崎やそのほか生徒を見守っている人もいる。そうやって岡崎の学校や街の形が見えてくる。そうやっていろんな人間の思いをを集めていく。

岡崎はこの街が嫌いで仮に社会人になっても仕事をしても希望を持てないだろうなと思っている。生きる意味も探している。多分、渚と出会っていなければ岡崎という人間は生きる意味を探すことができずに生きていた。渚や違う人生を歩んでいる人間を近くで見た。そうしていくうちに最初はこの街が嫌いだと言いながら街が好きになっていった。

渚は言う。この街を好きな人がこの街に住み、街が人を愛する。街は大きな家族だと。小さな家族から始まりそれがいずれ大きな街という家族になっていく。団子が連なってそれが渚の好きな団子大家族になるように。